オーディオツール 総合マニュアル

このマニュアルでは、各オーディオツールにおける「トークバック(やまびこ)」や
「ループバック」を回避し、快適な配信・通話環境を構築する方法を解説します。

💡 はじめに:トークバックとループバックの回避

ライブ配信やオンライン通話において最も頻発し、かつ解決が難しいトラブルが「自分の声がやまびこのように返ってくる(トークバック)」や「音声が二重になる・ハウリングする(ループバック)」という問題です。

このマニュアルでは、各ツールでこれらの問題を回避し、快適な「ミックスマイナス(特定の音声を除外したミックス)」環境を構築する方法を詳しく解説します。

ミックスマイナス(Mix-Minus)とは?
通話相手の声がループして聞こえてしまうことを防ぐために、相手に送る音声ミックスから「相手から送られてきた音声」だけをマイナス(除外)する技術です。Discordでの通話とOBSでの配信を両立させる際に必須の設定となります。
トークバック(やまびこ現象)の原因
OBS Studioの「デスクトップ音声」が有効になっている状態で、ミキサー側の「ループバック機能」をONにすると、PCの音がミキサーを経由して再びOBSに入力され、音声が二重に配信されてしまいます。これがやまびこ現象の最大の原因です。
ループバックの危険性
ループバック機能は「PCの再生音をそのまま配信に乗せる」便利な機能ですが、OBSのデスクトップ音声と併用すると音声が無限ループし、ハウリングや音割れの原因になります。OBSを使う場合は、ミキサー側でループバックをOFFにし、OBSのデスクトップ音声で取り込むか、ループバックをONにしてOBSのデスクトップ音声を無効にするか、どちらか一方に統一してください。
🎛️ 1. YAMAHA AG08 ハードウェア

ヤマハのAGシリーズのフラッグシップモデルであり、ライブ配信に特化したオールインワンのミキサーです。最大の特徴は、PCと接続した際に3系統の独立したUSBオーディオ入出力として認識される点です。これにより、複雑なソフトウェアミキサーを使わずに、物理フェーダーだけで直感的なミックスマイナス環境を構築できます。

入力デバイスの詳細解説(Mic, Streaming, AUX)

AG08をPCにUSB接続すると、録音デバイス(マイク)として以下の3つが認識されます。これらをアプリケーションの用途に合わせて正しく使い分けることが、トラブル回避の第一歩です。

PC側の入力デバイス名(録音)AG08からの音声ソース主な用途と設定先
Streaming (Yamaha AG08) AG08の全音声が含まれるミックス(Streaming ON/OFFスイッチでCH3/4, 5/6, 7/8を含めるか選択可能) OBS Studio、TikTok LIVE Studioの「マイク音声」として設定
Voice (Yamaha AG08) CH1とCH2のマイク音声のみを通す(自分のゲーム音などPCの音は一切含まれない) Discordなどのボイスチャットアプリの「入力デバイス(マイク)」として設定
AUX (Yamaha AG08) CH7/8のみを除外したミックス(マイク音声+PCのゲーム音やBGMなどが混ざった音) コラボ配信時など、ボイスチャット相手に自分のBGMや効果音を共有したい時の入力に設定
💡
ワンポイントアドバイス:Discordでの設定 Discordのマイク入力に「Streaming」を選んでしまうと、ゲーム音やBGMまで通話相手に送られてしまいます。必ず「Voice (Yamaha AG08)」を選択してください。

高度なルーティング:3系統USB出力の使い分け

PCからの出力(再生デバイス)も3系統に分かれています。Windowsのサウンド設定で、アプリケーションごとに音声を個別にAG08のチャンネルに割り当てることができます。

PC側の出力デバイス名(再生)AG08の物理チャンネル推奨される用途
Yamaha AG08 CH3/4 CH 3/4 フェーダー メイン音声:ゲーム音、ブラウザの音声、Windowsのシステム音
Yamaha AG08 CH5/6 CH 5/6 フェーダー ボイスチャット:Discord、Zoomなどの相手の声
Yamaha AG08 CH7/8 CH 7/8 フェーダー BGM・効果音:Spotify、YouTube Music、サウンドパッドなど

ミックスマイナス設定とトークバック回避(Discord連携)

「Discordの通話相手に、相手自身の声がやまびこのように返ってしまう(トークバック)」を防ぎつつ、「相手の声は自分のヘッドフォンには聞こえるが、配信(OBS)には乗せない」という設定の具体的手順です。

💡
相手にゲーム音も聞かせたい場合(コラボ配信など) Discordの入力デバイスを「Voice」ではなく「AUX (Yamaha AG08)」に設定します。これにより、相手には「あなたのマイク音声」+「PCのゲーム音やBGM(CH3/4, 5/6)」が送信されます。このとき、Discordの出力先をCH7/8に設定しておけば、AUXにはCH7/8が含まれない仕様のため、相手の声がループ(トークバック)することはありません。

OBS Studio / TikTok LIVE Studio 連携設定

AG08でミックスされた完璧な音声をOBSで配信するための設定です。二重音声を防ぐことが最も重要です。

  • OBSの「設定」>「音声」を開きます。
  • 「グローバル音声デバイス」セクションの「デスクトップ音声」および「デスクトップ音声2」をすべて「無効」にします。(※超重要:AG08側でPC音声をミックスして送るため、OBSで拾うと二重になります)
  • 「マイク音声」に「Streaming (Yamaha AG08)」を選択します。
  • OBSのメイン画面の「音声ミキサー」には、「マイク音声」のメーターが1つだけ表示されている状態が正解です。

TikTok LIVE Studioでも基本的な考え方はOBSと同じです。

  • TikTok LIVE Studioの左下の歯車アイコンから「音声設定」を開きます。
  • メインマイク(Mic)の入力として「Streaming (Yamaha AG08)」を選択します。
  • システム音声(スピーカーアイコン)は、音量スライダーをゼロにするか、デバイスを削除して無効化します。
🎛️ 2. YAMAHA AG06 MK2 ハードウェア

シンプルで直感的な操作が可能な、定番のライブストリーミングミキサーです。AG08のような3系統USBはありませんが、「TO PC(STREAMING OUT)」スイッチの切り替えで柔軟な配信が可能です。

TO PCスイッチ(STREAMING OUT)の使い分けとループバックの罠

AG06 MK2の配信設定の要となるのが、本体中央にある「STREAMING OUT(旧モデルではTO PC)」スイッチです。ここを間違えると音声トラブルに直結します。

モード動作内容(PCへ送られる音声)推奨される用途
DRY CH 1-2 CH1とCH2の入力音声(エフェクト無し)をそのままPCに送る DAWでの音楽制作(マルチトラック録音)、音声編集
INPUT MIX AG06に入力された音声(マイク、楽器等)のみをミックスしてPCに送る。PCの音は配信に乗らない OBSやTikTok LIVEでの通常配信(推奨)
LOOPBACK AG06の入力音声と、PCから再生されている音声をミックスして、再びPCに送る スマホ配信、またはOBSを使わずにZoom等でBGMを流したい場合
🚨
警告:ループバックによる音声二重化・ハウリング OBS Studioで「デスクトップ音声」を有効にしている状態で、AG06のスイッチを「LOOPBACK」にすると、PCの音がOBSで二重に取り込まれ、エコーや激しいハウリングの原因になります。OBSを使う場合は、スイッチを「INPUT MIX」にするのが基本中の基本です。

OBS / TikTok LIVE Studio 連携設定(INPUT MIX推奨)

AG06 MK2とOBSを組み合わせた最も安定する設定方法です。

  • AG06本体のSTREAMING OUTスイッチを「INPUT MIX」に設定します。
  • OBSの音声設定で、マイク入力として「ライン (AG06/AG03)」を選択します。(これでマイクの声だけがOBSに入ります)
  • PCのゲーム音やBGMは、OBS側の「デスクトップ音声(既定)」を有効にして取り込みます。
  • Discordの通話音声も「デスクトップ音声」としてOBSに入ります。もしDiscordの声を配信に乗せたくない場合は、後述の「VB-Cable」や「Voicemeeter」などのソフトウェアを併用する必要があります。

TikTok LIVE Studioでも同様の設定です。

  • AG06本体のSTREAMING OUTスイッチを「INPUT MIX」に設定します。
  • TikTok LIVE Studioの音声設定で、マイク入力として「ライン (AG06/AG03)」を選択します。
  • システム音声を有効にして、PCのゲーム音やBGMを取り込みます。
📌
AG06 MK2の限界 AG06 MK2は単体ではミックスマイナスができません。Discordの音だけを配信から除外したい場合は、VB-CableやVoicemeeter Potatoとの併用が必要です。
🎮 3. Roland BRIDGE CAST X ハードウェア

ゲーム配信に特化した多機能オーディオインターフェースで、ビデオキャプチャー機能も統合されています。最大の武器は「デュアルバス構造」と「仮想オーディオデバイス機能」で、極めて柔軟なミックスマイナス環境を構築できます。

デュアルバス構造(STREAM MIX / PERSONAL MIX)

BRIDGE CAST Xは、本体内部に配信用と自分用の2つの独立したミキサーを内蔵しています。

バス名役割出力先
PERSONAL MIX自分のヘッドフォンから聞こえる音声のバランスを調整ヘッドフォン端子
STREAM MIX配信(OBSなど)に送られる最終的な音声のバランスを調整USB経由でPC(OBS等)

仮想オーディオデバイスの割り当て

PCと接続すると、用途別の仮想オーディオデバイスが作成されます。Windowsのサウンド設定で、各アプリの出力をこれらに割り当てます。

仮想デバイス名割り当てるアプリケーションの例
GAME (BRIDGE CAST X)PCゲーム、Steamのゲームなど
CHAT (BRIDGE CAST X)Discord、TeamSpeakなどのボイスチャットアプリ
MUSIC (BRIDGE CAST X)Spotify、Apple Musicなどの音楽再生アプリ
SYSTEM (BRIDGE CAST X)Windowsのシステム音、ブラウザなど

ミックスマイナス設定(Discord音声を配信に乗せない)

専用の「BRIDGE CAST app」を使用して、STREAM MIXからDiscordの音だけを除外します。

OBS / TikTok LIVE Studio 連携設定

  • OBSの音声設定を開きます。
  • マイク入力として「STREAM (BRIDGE CAST X)」を選択します。これがBRIDGE CAST Xで作成した配信用のミックス音声です。
  • デスクトップ音声は無効にします。(BRIDGE CAST X側ですべてのPC音声がミックスされてSTREAMデバイスから送られてくるため、OBSでデスクトップ音声をオンにすると二重になります)
  • TikTok LIVE Studioの音声設定を開きます。
  • マイク入力として「STREAM (BRIDGE CAST X)」を選択します。
  • システム音声は無効にします。
💻 4. Voicemeeter Potato ソフトウェア ドネーションウェア

PC上で動作する非常に高機能な仮想オーディオミキサーです。物理的な機材(AG08やBRIDGE CASTなど)を持っていなくても、ソフトウェアだけでプロ顔負けの複雑なルーティングとミックスマイナスを実現できます。

Aバス(物理出力)とBバス(仮想出力)の概念

Voicemeeterを使いこなすための最重要概念が「Aバス」と「Bバス」の違いです。

バス役割具体的な出力先
Aバス (A1〜A5) 「自分が聞く音」 ヘッドフォンやスピーカーなど、実際の物理デバイスへの出力先。通常、A1に自分のヘッドフォンを割り当てます。
Bバス (B1〜B3) 「相手(PCソフト)に送る音」 OBSやDiscordなど、他のソフトウェアへの仮想的な出力先です。

高度なミックスマイナス設定(ゲーム配信+Discord)

「自分の声とゲーム音は配信に乗せるが、Discordの相手の声は配信に乗せない」という、ゲーム配信で最も需要のある設定例です。

📌
事前準備 Windowsの規定のデバイスを「VoiceMeeter Input (VAIO)」に、Discordの出力デバイスを「VoiceMeeter Aux Input (VAIO3)」に設定しておきます。
入力ソース Voicemeeterのストリップ A1 (ヘッドフォン)
自分が聞く
B1 (OBS配信用)
配信に乗せる
B2 (Discord送信用)
相手に送る
マイク HARDWARE INPUT 1 OFF(自分の声は聞かない) ON ON
ゲーム音/BGM
(Windows規定の音)
VIRTUAL INPUT 1 (VAIO) ON ON OFF
Discordの相手の声 VIRTUAL INPUT 3 (VAIO3) ON OFF (ミックスマイナス) OFF(ループ防止)
💡
設定のポイント Discordの相手の声(VAIO3)のストリップで、B1ボタンをOFFにしているのがミックスマイナスの要です。これにより、配信(B1)には相手の声が送られなくなります。

OBS / TikTok LIVE Studio 連携設定

  • OBSの音声設定を開きます。
  • マイク入力として「VoiceMeeter Output (VB-Audio VoiceMeeter VAIO)」(これがB1バスの出力です)を選択します。
  • デスクトップ音声は無効にします。(Voicemeeter側ですべてミックスされているため)
  • TikTok LIVE Studioの音声設定を開きます。
  • マイク入力として「VoiceMeeter Output (VB-Audio VoiceMeeter VAIO)」を選択します。
  • システム音声は無効にします。
🔌 5. VB-Cable ソフトウェア ドネーションウェア

PC内部でアプリケーション間の音声を橋渡しする「仮想オーディオケーブル」です。Voicemeeterのようなミキサー画面はありませんが、単体で特定のアプリの音声を分離してOBSに送るなどの用途で非常に強力です。

Discordの音を配信に入れない設定例(単体使用時)

Voicemeeterを使わずに、VB-CableとOBSの機能だけでミックスマイナスを実現する方法です。AG06などのシンプルなミキサーを使っている方におすすめです。

応用:BGMを配信に乗せない(著作権対策)

💡
著作権対策としてのVB-Cable活用 Spotifyなどの音楽アプリの出力先を「CABLE Input」に設定し、上記と同じ手順を踏めば、「自分は音楽を聴きながらゲームをするが、配信には音楽が乗らない」という環境が作れます。